工作機械で加工するのに適した金属
弊社の様な金属加工を行う業種で取り扱われる材料は、鉄に何かを加えて作られた金属 が多いです。
特に『 鉄 』はよく加工に用いられます。
意外に思われるかも知れませんが、100%粋な鉄(Fe)(iron)という素材はあまり一般的ではありません。
主成分が鉄であっても何かしらの化合物や添加物が加わって構成されている素材が無数に存在しています。
化合物や添加物によって、硬度(硬さ)・塑性そせい(ひずみやすさ)・粘性ねんせい(ねばり)等、性質の異なる金属になります。
ものづくりの現場では、それらを総称して『 鉄 』と呼んでいます。
表記も『Fe』や『iron』ではなく、Steel(鋼)の『 S 』が使用されます。
工作機械加工でよく使われる金属
工作機械加工でよく使われる金属の代表的な名称です。
※〇には数字が入ります
一般構造用圧延鋼材(いっぱんこうぞうようあつえんこうざい)【SS〇〇】
Structurel(構造用)Steel(鋼)の頭文字をとって、SS材と呼ばれています。
広汎な用途を想定しているので、鉄を主成分にリン、硫黄、炭素、マンガン等の最低限の含有量の基準が決められている以外は規定が示されていません。
SS材と呼ばれるものだけでも種類が多く、価格も比較的抑えられているので、流通量の多い素材です。
炭素の含有量が低い為、硬度を上げる熱処理(焼入れ)には向かないナマ材なので加工しやすく、土木建材、機械設備、橋、車両、船舶など幅広く使用されています。
炭素鋼(たんそこう)【S〇〇C】
鉄に炭素(カーボン)を混ぜた合金です。炭素量は2%以内とされています。
炭素の量によって、S50CやSK5など製品の表記が変わります。
炭素の量が多い程、金属としての強度が高く、焼入れした際の硬度も高くなります。
プラスチックの成型金型やプレス金型に多く用いられています。
クロムモリブデン鋼【SCM〇〇】
鉄にクロムとモリブデンを加えた低合金鋼です。
溶接が容易で、強度と硬度に優れています。
歯車やピストンピン、クランクシャフト、自転車フレーム、構造管などに用いられています。
工具鋼(こうぐこう)【SK〇〇、SKS〇〇、SKD〇〇、SKT〇〇、SKH〇〇】
炭素鋼から発展した工具向けの特殊鋼
- 炭素工具鋼【SK〇〇】炭素鋼よりも炭素量が多いので硬さを重視する刃物やヤスリに用いられています。
- 合金工具鋼【SKS〇〇、SKD〇〇、SKT〇〇】炭素工具鋼に少量のタングステン(W)、クロム(Cr)、バナジウム(V) などを加えたもので、ドリル、タップ、ダイス、プレス型、押出工具などに用いられています。
- ダイス鋼【SKD〇〇】炭素工具鋼に炭素とクロムを高配合しているので、耐摩耗性、不変性に優れた鋼です。大型で熱や物理的なインパクトの激しいプレス金型や鍛造(たんぞう)の金型などに用いられています。
- 高速度鋼【SKH〇〇】 high speed steelからハイス鋼とも呼ばれています。靭性(粘り強さ)に優れた金属です。
高速度鋼(ハイス鋼)には、タングステンを加えたものと、モリブデンを加えた2種類あります。
〇タングステン系【SKH1~10】切削性が良いので、高速重切削や難切削材用の工具として用いられています。
〇モリブデン系【SKH40~59】衝撃のかかる高硬度材の切削用工具として用いられています。
ステンレス鋼 【SUS〇〇】
鉄にクロム、またはクロムとニッケルを含む合金鋼で、表面に保護被膜を形成するという特性で、錆びにくい金属です。クロムの含有量が多い程、耐食性(錆びにくさ)が強くなります。
一括りにステンレスといっても、磁石に付くもの、付かないもの等、種類が色々とあります。
〇クロム系ステンレス鋼材【SUS4〇〇】
- マルテンサイト系 室温での強度が高いけれど、溶接性は低い素材です。タービンブレード、船舶用シャフト、機械構造用部品、ステンレス製刃物などに用いられます。
- フェライト系 マルテンサイト系とオーステナイト系の中間的な素材です。耐酸化性に優れているので炉部品、化学設備などに用いられます。
〇クロム・ニッケル系ステンレス鋼材【SUS3〇〇】
- オーステナイト系 ステンレスの中でも耐食性、加工性、溶接性は優れていますが、焼入軟化性が無いので強さや硬さはマルテンサイト系に劣ります。非磁性で、低温や高温に強い素材です。
〇耐熱ステンレス鋼材【SUH〇〇】
- マルテンサイト系耐熱鋼材【SUH1、3、4、600、616】高温強度の大きい合金です。高温用ボルト、ナット、タービンブレードなどに用いられています。
- フェライト系耐熱鋼材【SUH446】焼入れしてもマルテンサイトに出来ない素材で、高温耐酸化性が優れています。加熱箱、バーナ、家庭用石油ヒータの燃焼室に使われています。
- オーステナイト系耐熱鋼材【SUH31、309、310、330、661】強靭性を持つ、高温でも歪みにくい素材です。熱交換器、炉部品、タービンロータ、シャフト、ブレードなどに用いられています。
銅(どう)【Cu】
純物質 約1万年前から銅器などに用いられてきた金属です。
高い電気伝導性と熱伝導性、殺菌性を有し、鍋などの日用品、集積回路や半導体、放射線治療など幅広く利用されています。
- 青銅せいどう【B】銅と錫を合わせた合金で、古代エジプトや中国の遺跡から発見されています。
- 黄銅おうどう【C〇〇】銅と亜鉛の合金で、展延性(てんえんせい:固体が破壊されずに柔軟に変形する限界)に優れています。扱いやすい合金として中世の時代から広く使われており、現在はコンセントや端子などにも使われています。
- 真鍮しんちゅう【C〇〇】黄銅の中でも亜鉛の含有量が20%を超えているものを指します。5円玉、金管楽器、給水管、アクセサリー等にも使われています。
チタン【Ti】
鉱石の中に含まれる金属で、地球だけでなく月面の岩石や隕石の中にも含まれています。
強度、軽さ、耐食性(光触媒)、耐熱性、環境性能、金属光沢を持ち合わせた高価で高品質な金属です。非磁性の素材で磁石には付きません。
航空機、宇宙船、ミサイル、熱交換器、バルブ、石油精製プラント、建材から宝飾品、ゴルフクラブまで幅広く使われています。
ここに挙げた金属の他にも色々種類はありますが、日常的に加工している『 工作機械で加工に適した金属 』はこんな感じです。
見た目が金属と言っても、硬かったり柔らかかったり、粘りがあったり無かったり、変色したりしなかったり…
素材によって違うんだ、と知っていただけると幸いです。